1. はじめに

2025 年 6 月 1 日、全面施行された中国の改正法令「中小企業代金支払保障条例」(以下「条例」)は、日系企業を含む中国国内外の大企業にとって“サプライチェーンのキャッシュフロー”を直撃する規制として注目を集めています。

施行から一定時間が経ち、業界動向も定まってきました。要点を整理し、中国の日系企業が検討すべき対応を解説します。

概要を説明すると、日系現地法人が、大企業に該当する場合、サプライヤーに対する支払い条件について、当該規制を遵守する必要があります。また中小企業に該当する場合は、取引先の大企業に対する調達取引において、当該規制に従った契約と支払いを求めることができます。日系企業の部品メーカーが中国大手メーカーとの調達契約において不利な支払い条件を吞まされたり支払いを遅延させられる事態も見られるようであり、本条例が朗報になればと願っております。

2. 条例の目的と適用範囲

法律の目的としては、「中小企業からの物品・工事・サービス調達における代金遅延を防止し、キャッシュフローを改善する」こととされています。背景としては、自動車業界などを中心に、中国国内市場での内部競争(内巻)が激化したため、弱い立場のサプライヤーに対する数ヶ月、場合によっては数年といった未払の事例が多発したため、こうした状況を打破することが当該条例施行の目的の 1 つといわれています。

条例が適用されるのは次の場合です。

「公的機関、公的事業法人及び「大企業」が、「中小企業」から「物品・工事・サービス」を調達し代金を支払う場合(2 条)」ここでいう公的機関、公的事業法人とは、政府部門、公立病院などを指します。大企業は中小企業以外の企業をいいます。それでは、中小企業とはどのような企業をいうのでしょうか。

この点、この条例のための具体的な定義はありません。別の法律法規における幾つかの基準を参考に判断されることになると思われます。

一般的な基準としては「国務院が承認した中小企業区分基準」として「統計における大・中・小・マイクロ企業区分弁法(2017)」が挙げられます。同弁法の付表に従業員数、売上などによる区分の基準が記載されております。

たとえば工業 1では、「従業員 1000 人以上」及び「売上が 4 億元以上」、小売業では「従業員 300 人以上」及び「売上が 2 億元以上」であると大企業と区分されるといった基準となっています(両要件を満たさないと下の区分とされる。)。

また、実務上は、工業情報部主宰のセルフテスト公式サイト(https://baosong.miit.gov.cn/ScaleTest)、 Wechat ミニプログラム「中小企業規模類型自己診断ミニプログラム(中国語:中小企业规模类型自测小程序)」等を参考に該当性を確認することが多いようです。

3.     大企業に課される義務

(1)   支払期限(9 条 2 項)

支払期限は原則 60 日以内です。

契約に別段の定めがある場合にはその定めに従うとされています。ただし、以下の条件を満たす必要があるとされています。

  1. 業界の規範、取引の慣行に基づき支払期限を合理的に定め、代金を遅滞なく支払わなければならない。
  2. 第三者からの支払を受けることを条件として中小企業に代金を支払うこと、又は第三者からの支払進捗に応じた割合で中小企業に代金を支払う旨を定めることはできない(バックトゥバック条項の禁止)。
  3. 法律、行政法規又は国の関係規定において支払期限について別段の定めがある場合。

(2)   支払期限の起算日(9 条、11 条)

支払期限の起算日については次のように定められています。

  1. 履行進捗による精算、定期精算等の精算方式を採用する場合:双方が精算金額を確定した日から起算
  2. 検査又は検収を経て合格であることを支払条件とする場合:検査又は検収を経て合格した日から起算

支払期限を決めてもその起算日をコントロールして、関連規制から逃れることが考えられるため、契約において明確かつ合理的な検査又は検収の期限を定め、当該期限内に検査又は検収を完了しなければならないとされています。検査又は検収を故意に遅延させた場合、支払期限は定められた検査又は検収期限の満了日から起算するとされています。

(3)   支払方法(11 条)

商業手形(手形)や電子債権の使用も認めるものの中小企業に強制できず、商業手形、売掛金電子証憑等

の支払方法を理由に実質的な期限延長を禁じる内容となっています(11 条)。

(4) 工事建設における任意保証金の禁止(13 条)

工事建設契約については、法律で認めた 4 種類(入札・履行・品質・農民工賃金保証金)以外は保証金の徴収を禁止しています。

なお、保証金を徴収する場合は次の内容を遵守する必要があります。

  1. 保証金の徴収比率、方法は、法律、行政法規又は国の関係規定に従わなければならない。
  2. 保証金を現金に限定してはならない。中小企業は金融機構が発行する保証書等で保証を提供する場合、受け入れなければならない。

保証金は、保証期限が満了後、遅滞なく中小企業と徴収した保証金に対して確認・精算を行い、返還しなければなりません。

(5) 支払遅延の口実の制限(14 条)

法的代表者若しくは主要責任者の変更、内部決済プロセスの履行、又は契約に約定のない状況において竣工検収の届出、決算監査待ち等を理由として、中小企業への代金支払を拒絶又は遅延してはなりません。

(6) 紛争がある場合の分割払い(15 条)

取引において、紛争が部分的には存在しているものの、その他の部分の履行に影響を及ぼさない場合には、紛争に係らない部分については、遅滞なく支払の義務を履行しなければなりません。

(7) 遅延利息(17 条)

契約に定めがない場合は日利 0.05%(年利 18.25%相当)の遅延利息を支払うことになります。契約に定めがある場合でも 1 年物ローン市場金利(LPR)を下回ることはできないとされています。

(8) 支払遅延の情報開示(18 条)

中小企業に対し支払期限が過ぎてもなお未払いとなっている契約の件数、金額等の情報を企業年度報告に組入れ、国家企業情報公示システムを通じて社会に公示しなければなりません。

(9) リスク管理、コンプライアンス管理体制(19 条)

中小企業への代金支払の保証に関する業務状況を企業のリスク管理及びコンプライアンス管理体制に組み込み、その完全子会社又は支配子会社に対して、中小企業への代金を遅滞なく支払うよう督促しなければならないとされています。

今後中国におけるコンプライアンス内部通報などにおいて、ベンダーからの内部通報も受け入れる形を取るなどして、中小企業への代金支払の保証に関する業務状況の確認を組み込む大企業は増えるものと予想されます。

4. 政府監督管理の強化

政府主導の通報プロセスが明確化されて、通報プラットフォームなども整備されました。

例:全国中小企業向け違約・代金支払遅延通報プラットフォーム(中国語:「全国违约拖欠中小企业款项投诉平台」)

<https://sme-dj.miit.gov.cn/#/page/portal>

また、法により信用失墜行為と認定された場合、関連部門は手続に従って、信用失墜に関する状況を関連主体の信用記録に記入しなければならないとされています。情状が厳重又は不良な社会影響を生じた場合、全国信用情報共有プラットホーム及び企業信用情報公示システムに情報を記入し、社会に公示するとされ、大企業に関しては財政資金援助、投資プロジェクトの承認、資金調達の獲得、市場参入、資格審査、優秀性・先行性の評価等に関して法律に基づいて制限が課されるとされています。

5. 業界動向:自動車・医療が先行

中国の自動車大手企業の動向としては、広州汽車集団股份有限公司、北京汽車集団有限公司、理想汽車有限公司、上海蔚来汽車有限公司、安徽江淮汽車集団股份有限公司等計17 社の自動車業界の会社が、自発的にサプライヤーへの支払期限について、60 日を超えない旨を約束しています。また自動車企業では、中小企業支払についての相談窓口が設立されています 。

医療業界でも、各地方において、企業への支払期限が短縮されている状況が各地方政府のホームページなどで公表されています 。

6. 今後当該条例に関連して取るべきアクション

まず、グループ内各社の「大企業/中小企業」判定を再確認することが推奨されます。

大企業にあたる場合には、調達・発注契約書で「支払期限=60  日以内」を標準化していくことが考えられ、例外的にこれ以上の支払期限にする場合には条項の内容が本条例に違反して無効と言われないか、バックトゥバック条項の内容の確認を含めて検討が必要となります。商業手形等の使用時は「中小企業の同意」と「代替手段提示」を明記する必要があります。また、「日利 0.05%」の遅延利息が自動的に適用されないように遅延利息条項を先に合意しておくなどの対応も考えられます。

また、中小企業又はマイクロ企業にあたるグループの中国子会社については、国有企業、政府機関に対しては 30 日(最長 60 日)の支払期限を遵守するよう要求ができ、大企業に対しても、上記 3.で述べた義務を遵守するように要求することが可能です。ただし、契約締結時には、中小企業にあたることを明確に伝える必要があります。