2023 年 7 月 3 日、中国政府は、ガリウム関連製品及びゲルマニウム関連製品(以下「本件規制品目」といいます。)を輸出する場合、本年 8 月 1 日以降は、当局の許可取得が必要となる旨の公告を公表しました(以下「本件輸出規制」といいます。)。同公告の公表を受けて、日本経済への影響を懸念する報道がなされるなど、本件輸出規制は、日本企業に重大な影響を与える可能性があることから、本稿では、公表されている本件輸出規制の内容を簡単に説明した上で、本件輸出規制のWTO  協定上の問題点及び今後とるべき対応について論じます。

1 本件輸出規制の概要

中国商務部及び税関総署は、本年 7 月 3 日、中国輸出管理法、中国対外貿易法、中国関税法に基づき、国家の安全と利益を保護するために、8 種類のガリウム関連製品(下記表 1 参照)及び 6 種類のゲルマニウム関連製品(下記表 2 参照)を輸出する場合、本年 8 月 1 日以降、輸出許可の取得を義務づける公告 2023 年第 23 号を公表しました 。

表 1:規制対象となるガリウム関連製品

同公告によれば、施行後、本件規制品目を輸出しようとする事業者は、省レベルの商務主管部門を通じて、商務部に対して、 デュアルユース品目及び技術の輸出申請書とともに、(i)輸出にかかる契約書等の原本又はそのコピー若しくはスキャンコピー、(ii)輸出品目の技術説明書又は検査報告書、(iii)最終使用者及び最終用途に関する証明、(iv)輸入者及び最終使用者の説明及び(v)申請者の法定代理人、主要事業責任者及び担当者の身分証明書を提出することが必要となります。

そして、商務部は、上記申請の受領日から、関係部門と連携しながら審査を実施して、法定期限内に許可又は不許可の決定を  行います(許可決定がなされると、商務部より、輸出許可が交付されます。)。また、本件規制品目のうち、国家安全保障に大きな影響を与えるものの輸出は、商務部が関連部門と連携のうえ、国務院に報告し、承認を受けることが必要とされています。

輸出者が本件規制品目を無断で輸出した場合、輸出許可の範囲を超えて輸出した場合、又はその他違法な事情がある場合に  は、商務部又は税関等は、関係法令に従い、行政処分を行い、犯罪を構成する場合、法律に基づき刑事責任を追及するとされて   います。

2. 本件輸出規制と WTO 協定との関係

各国は、自国の政策を実施するために、輸出規制を導入することも認められているものの、その規制は国際的な貿易ルールを定める WTO 協定と整合している必要があり、WTO 協定に整合していない場合、他国は、WTO の紛争解決手続を通じて、是正を求めることができます 。そして、各国の鉱物資源の輸出規制は、過去、何度も WTO の紛争解決手続にて争われており、中国が導入した鉱物資源に対する輸出規制も、WTO   協定違反が認定されています。そこで、以下では、これら事件における判断の蓄積も踏まえた上で、鉱物資源に対する輸出規制と WTO 協定の関係にも触れつつ、本件輸出規制の WTO 協定整合性について論じます 。

(1) 輸出入数量制限の一般的廃止

鉱物資源に対する輸出規制との関係でもっとも重要な WTO 協定の規律は、数量制限の一般的廃止を求める、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)11 条 1 項です。

GATT11 条 1 項は、「他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について・・・いかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない」と規定していますが、同規定のポイントは、輸出入の数量を具体的に定めて行う制限のみならず、輸出税や課徴金以外の形式での輸出制限を幅広く一般的に禁止している点です。過去には、裁量的・恣意的な許可 性、輸出入価格制限、輸出入均衡を求める措置、輸出入のコストを事実上引き上げるような措置、輸出数量の上限を定める措置   などが、GATT11 条 1 項違反と判断されています。本件輸出規制は、本件規制品目を輸出するためには、中国当局の許可を取得することを求めており、GATT11 条 1 項に違反すると考えられます。

(2) 例外事由・正当化事由

WTO 協定は加盟国による正当な国内政策の実施を妨げるものではなく、GATT11 条 1 項等の義務に違反する輸出規制であっても GATT の認める一定の例外事由・正当化事由に該当する場合には、当該措置を講じることが認められます。

ア     過去の事案

過去、鉱物資源の輸出規制が争われた主要な事例においては、下記のような議論が展開されています。

  • 中国―鉱物資源の輸出規制措置事件では、米国、EU 及びメキシコが、中国によるボーキサイト、コークス等の輸出規制(輸出税、輸出割当等)にかかる 32 の措置が、WTO 協定及び中国加盟議定書に違反すると争ったのに対して、中国は、下記のような例外事由・正当化事由を援用したものの、いずれの主張も認められませんでした。
    • 中国は、一部のボーキサイト(refractory-grade bauxite)の輸出割当は、中国にとって「不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課する」措置であって、GATT11 条 2 項a 号より正当化されると主張したが 4、パネル及び上級委員会は、当該主張を認めず 5
    • 中国は、一部のボーキサイト(refractory-grade bauxite)に関する輸出割当及び蛍石に関する輸出税は、有限天然資源を保全するための措置であって、GATT20 条 g 号により正当化されると主張したが 6、パネルは、当該主張を認めず7(但し、上級委員会は、パネルは GATT20 条 g 号の解釈を誤ったとして、パネル判断を破棄した。。
    • 中国は、マグネシウム、マンガン、亜鉛を含む二次製品である「スクラップ産品(scrap products)」と、コークス、マグネシウム、マンガンの一次産品を「EPR 産品(energy intensive, highly polluting, resource-based products)」に対する輸出税と輸出割当は、国民の健康を保護するための措置であって、GATT20 条 b 号により正当化されると主張したが 9、パネルは、当該主張を認めず 。
  • 中国―レアアース・ダングステン・モリブデンの輸出規制措置事件では、日本、米国及び EU  が、中国によるレアアース、タングステン・モリブデンに関する輸出規制(輸出税、輸出割当等)が、WTO 協定及び中国加盟議定書に違反していると争ったのに対して、中国は、下記のような例外事由・正当化事由を援用したものの、いずれの主張も認められませんでした。
    • 中国は、82 品目(レアアース 58 品目、タングステン 15 品目、モリブデン 9 品目)に対する輸出税は、人の生命及び健康を保護するための措置であって GATT20 条 b 号により正当化されると主張したが 11、パネルは、当該主張を認めず
    • 中国は、各種レアアース、タングステン、モリブデンに対して輸出割当は、有限天然資源を保全するための措置であって、GATT20 条 g 号により正当化されると主張したが 13、パネル及び上級委員会は、当該主張を認めず 14
    • インドネシア―原材料に関する措置事件では、EU が、インドネシアによるニッケル鉱石の輸出禁止措置及び国内加工要求が WTO 協定に違反していると争ったのに対して、インドネシアは、ニッケル鉱石に対する規制は、インドネシアにとって「不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課する」措置であって、GATT11 条 2 項 a 号より正当化されると主張したが 15、パネルは、当該主張を認めず 16

イ     本件の中国のガリウム、ゲルマニウムの輸出規制

上記のとおり、過去、鉱物資源の輸出規制が争われた事案では、GATT11 条 2 項 a 号、GATT20 条 b 号、GATT20 条 g 号等が援用されてきましたが、今回の、中国の、ガリウム及びゲルマニウムに対する本件輸出規制は、公告 2023 年第 23 号によれば、国家の安全と利益を保護することを目的に導入された規制であり、中国のデュアルユース品目及び技術に対する輸出規制の   一部として導入されていると考えられることから、本件輸出規制の正当化事由として、デュアルユース品目及び技術に対する輸出  規制を正当化する論拠として援用されることが多い、GATT21 条(b)(ii)が援用される可能性が高いと考えられます。

第二十一条 安全保障のための例外

この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。

(b) 締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げ ること。

(ii) 武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原 料の取引に関する措置 

本件輸出規制が、GATT21 条(b)(ii)により正当化されるには、規制対象となっている輸出取引が、①武器、弾薬及び軍需品の 取引に「関する」措置、又は②軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に「関する」措 置である必要があります。そして、「関する」(relating to)との要件は、措置と目的との間に、目的−手段の近接した真正な関係が 求められることから 17、本件輸出規制による規制が許容されるためには、本件規制品目が、武器、弾薬、軍需品等に用いられる 等、軍事用途で用いられるとの事情が必要であると考えられます。この点、報道等によれば、本件規制品目は、衛星通信、太陽 光電池、半導体、人工知能(AI)など先端領域で広く利用されるとも指摘されていますが、そもそも、民生用途で利用される場合の ほか、軍事用途で利用される事例があるのか、が問題になると考えられます。また、仮に、本件規制品目が、軍事用途で利用さ れた事例がある又は利用される可能性がある場合であっても、現在の公表情報によれば、本件輸出規制が、上記①②のような、 軍事用途で利用される場合のみに輸出を制限するような形で運用がなされるのか、許可を得るために必要とされる書類がその目 的を超えていないかなども明らかではありません。したがって、本件輸出規制は、GATT21 条(b)(ii)により正当化されず、WTO 協 定に反する形で導入・適用される懸念が残っており、更なる事実関係の調査・分析や、中国側への説明を求めていくことが重要と 考えられます。

3 今後の対応

上記のとおり、本件輸出規制は、それが軍事目的で利用される場合のみに輸出を制限する形で厳格に運用される場合、 GATT21 条(b)(ii)に基づいて正当化される可能性がありますが、現時点において、同規制がどのように運用されるのかは、明確 にされていません。仮に本件輸出規制が、軍事用途・民生用途を問わず、抽象的な安全保障上の懸念を理由にして、恣意的に用 いられてしまうと、日本企業及び日本経済にとって重大な影響が生じる可能性があります。そのため、日本政府・日本企業として は、まずは、中国政府に対して、本件輸出規制の WTO 協定整合性に懸念があるとして、本件輸出規制の目的や、その運用方 法・考え方を説明させること、透明性を向上させることが重要であると考えられます。

また、昨今、日米欧は、半導体や AI 技術などの先端貨物・技術に対する輸出規制を強化していますが、このような輸出規制の 強化と、中国による本件輸出規制は区別されるべきとの議論を整理して、展開していくことも十分可能であると考えられます。当 該観点からは、中国では、軍民融合政策が推し進められるなど、直接の需要は民生品に組み込まれるなど民需用であったとして も、それが軍需品の製造・開発に積極的に利用・転用する意思があることを政府自らが方針として認めているわけですから、産品 の性質・通常の用途等に関わりなく、中国向けに輸出されるあらゆる産品が軍需生産につながる可能性があると輸出国政府が判 断する客観的根拠があるということになりそうです。この意味で、国内での軍事用途と民生用途の区別が困難な状況が生じてい る点は、日米欧と中国とを区別する上で、重要な違いになる可能性があります。

昨今、経済安全保障上の要請や、グリーン経済への移行を見据えた産業政策上の要請から、自国で採掘・抽出される鉱物資源 の輸出を規制する動きが世界的に拡大していますが、かかる動向は、鉱物資源の輸入に大きく依存する日本経済にとり死活的な 問題であり、日本企業・日本政府として、かかる動きに対して、法的にどのように対抗していくのか、戦略を考える必要性が一層高 まっていると考えられます