はじめに
事業者結合の違法な実行に対する処罰について、2022年8月1日施行の改正独占禁止法は、その第58条において、事業者が同法の規定に違反して結合を実行し、これに競争を排除若しくは制限する効果があり、又はそのおそれがあるときは、国務院独占禁止法執行機関が結合実行の中止、期限付きの株式又は資産の処分、期限付きの営業譲渡その他必要な措置を講じて結合前の状態に回復することを命ずるとともに、前年度売上高の10%以下の過料に処し、競争を排除・制限する効果がないときは、500万元以下の過料に処するとの規定を定めている。
その具体的な処罰基準を明らかにするため、国家市場監督管理総局(以下、「SAMR」という)は2025年2月19日、「事業者結合違法実行行政処罰裁量基準(試行)」(以下、「基準」という)を公布し、これは即日施行され、事業者結合に対する行政処罰の規範化、独禁法執行機関による行政処罰裁量権行使の保障、さらに事業者の合法的な権利・利益の保護に対して、重要な根拠が与えられることとなった。本稿においては、日系企業による理解・運用に資するため、この「基準」の主要な内容について、実例を踏まえ解説するものとしたい。
事業者結合違法実行の主な行為類型とその具体的な状況
「基準」は、事業者結合違法実行の主な行為類型を次のように定めている(2条)。
(1)事業者結合が申告基準に達しているにもかかわらず、法に基づく事前の申告をせずに結合を実行したこと。国務院の定めた申告基準に達する事業者結合は、SAMRに対して申告を行う必要があり、許可なくその結合取引を実行することはできず、これに違反すれば、無許可の違法な結合取引が成立する。例えば、ある製品の製造業者が原材料の仕入先を買収しようとし、申告基準に達するにもかかわらず、未申告のままその買収を実行する場合であり、これが典型的な事業者結合の違法実行となる。
(2)事業者結合の申告後、許可を得ずに結合を実行したこと。結合申告をした事業者は、SAMRの許可を待たなければならず、許可が下りないまま事業者結合を実行すると、同じく違法行為が成立する。例えば、企業2社が合併を計画し、申告をしたが、審査の結果が発せられる前にこれら2社間で業務の統合や人員の配属を行うと、事業者結合の違法実行が成立する。
(3)申告基準に達していないが、競争を排除・制限する効果又はそのおそれがあるため申告を要求されたにもかかわらず、これを行わないこと。例えば、ある新興産業に属する数社について、それぞれの企業規模が小さいために申告基準には達しないものの、当局の判断により、これらの結合が基幹技術とその市場の独占をもたらし、競争の制限が懸念されるとして申告が要求されたときは、これに従って申告をしない限り、違法の成立となる。
(4)事業者が制限条件付審査決定に違反したこと。結合申告に対しては、SAMRがその悪影響を懸念して制限条件付の許可をすることがあり、これを受けた事業者がその制限条件に違反すれば、行政処罰の対象となる。例えば、企業買収について、SAMRが買収後一定期間における製品の値上げや種類の削減などを禁止したにもかかわらず、この条件を遵守しなかったときは、違法行為が成立する。
(5)事業者結合審査禁止決定に違反したこと。SAMRによる結合禁止の決定が下りた後、事業者がこれを遵守せずに当該結合取引を実行した場合には、重大な違法行為が成立する。
過料額の確定方法
1. 競争排除制限効果のない結合取引の違法な実行
この類型については、次の3段階を経て過料額が決定される。
(1)初期過料額の確定(6条・7条・8条)
競争排除制限効果がない結合取引を実行した場合における初期的な過料額は、一般に250万元とされている。しかし、SAMRが違法な事実を把握する前に自ら報告し、あるいは違法な結果を除去・軽減する措置を自ら講ずるなど、軽い処罰の事情があるときは100万元までの減額を行うことができ、逆に、他の事業者に対して違法な結合取引実行の教唆又は強要を行い、あるいは過去において同種の違法行為のために処罰されたことがあるにもかかわらず1年以内に再び実行するなど、重い処罰の事情があるときは400万元までの増額を行うことができる。軽い処罰と重い処罰これら双方の事情が併存するときは、SAMRが当該事件の具体的な事情を総合的に勘案して初期的な過料額を確定する。したがって、例えば、結合取引を違法に実行した企業が、SAMRによる発見の前に自らその事情を報告するとともに、原状回復の積極的な措置を講じた場合には、100万元がその初期的な過料額となりうる。
(2)初期過料額の調整(9条・10条)
初期的な過料額の確定後、その他関連する要素も踏まえて金額の調整が行われる。例えば、結合取引後の組織がまだ運営や操業を開始しておらず、又は事業者が積極的に調査に協力し、違法の事実を如実に陳述するとともに重要な証拠を提出したような場合には、初期的な過料額の40%を限度として、事項1件につき10%の引下げを行うことができる。逆に、事業者がSAMRに提供した資料・情報が誤解を招く内容や虚偽であった場合や、調査への協力が消極的であったような場合は、初期的な過料額に対して事項1件につき10%の引上げをすることができる。したがって、例えば、結合取引を違法に実行したものの、調査の過程で積極的に協力し、重要な証拠を提供したという事情のほか、結合取引後の組織がまだ生産を開始しなかったという事情もあるケースでは、引下げの事項が2つ存在することとなり、初期的な過料額が250万元であれば、計20%の減額をして200万元とする調整が行われる。
(3)最終過料額の確定(12条)
このような調整を経た金額が最終的な過料額となるが、その上限は500万元とされており、調整額が500万元を超えてもその超過額を差し引いて最終的な過料額が確定される。
2. 競争排除制限の効果又はそのおそれがある結合取引の違法な実行
この類型に対しては、既述のように、SAMRにおいて、前年度売上高10%以下の過料に処するほか、結合取引実行の中止、一定期限内の株式又は資産の処分、一定期限内の営業譲渡その他結合前の状態の回復に必要な措置を命ずることができる。過料額の計算は、競争排除制限の効果のない事業者結合の違法な実行に対する行政処罰の裁量に係る手順に照らすとともに、結合取引実行の時期、競争排除制限効果又はそのおそれの継続する期間・範囲、違法行為の結果除去の事情といった諸要素を総合的に勘案して行われる(11条)。
特殊な事情に基づく処理
1. 行政処罰免除の事情
(1)任意の報告及び原状回復を行った初回の違法(15条1項1号)
事業者結合取引の違法な実行が初めてであり、SAMRによる発見前に自ら報告するとともに、結合前の状態に回復する措置を講じた事業者に対しては、行政処罰をしないことができる。例えば、スタートアップ企業2社が合弁企業を新設し、法に従った申告をしないまま結合取引を実行したが、社内検査で問題が発見されたため、SAMRに対して直ちに自ら報告し、合弁企業を速やかに抹消して原状回復を行った事例において、SAMRは、調査の結果、不処罰の要件が充足されているとして処罰を行わない決定をした一方、教育指導を行い、その後の営業における関連法令の厳守を要求した。
(2)プルーデンス評価義務の履行後に不可抗力によって生じた違法(15条1項2号)
事業者において、自社によるプルーデンス評価の後に、予見・回避・克服のいずれも不可能な客観的事情のために結合取引の違法な実行に至ったことを証明したときは、行政処罰をしないことができる。
2. 重い処罰の事情
「基準」は、既述の一般的な重い処罰の事情のほかに、一定の悪意ある事業者結合の違法な実行に対する特別な規定を定めており、それによると、SAMRは独占禁止法63条に基づいて、同法58条に定める過料額の2倍以上5倍以下の範囲で具体的な過料額を確定することができる(14条)。
「基準」の適用範囲と施行時期
「基準」は、2022年8月1日以降に違法に実行された事業者結合に適用される。その施行前に処罰の決定が下りた事件には適用されない(16条)。この規定に基づき、例えば、2022年10月に違法に実行された事業者結合行為に対する行政処罰については、「基準」の規定に基づいて過料額と処罰の措置を確定しなければならないのに対し、2022年5月に実行され、2022年7月に処罰の決定がなされた同種行為については、「基準」が遡及適用されることはなく、当時の法令に従った決定が維持される。
おわりに
「基準」の施行は、独禁法執行機関に対し、明確かつ具体的な法執行の基準を提供するとともに、事業者に対し、その経営活動における事業者結合行為に明確な法的限界を示した。事業者は、違法を理由に科される厳しい行政処罰を回避するには、事業者結合の申告と実行の過程においてより慎重な対応が求められる。
